上の娘の乳歯がとれた。

初めてのことである。

　昨日の夜，べそかきながら『ここの歯がね，きのうからぐらぐらするん，，』と言うので覗いて見ると，下あごの前歯が一本，浮いている。

　『それはね，おとなの歯がそこから生えてくるんで，いらない歯が抜けよるとよ。あんまりいじると，バイキンが入っていけんけ，そのままにしとき。』

　とかなんとか，連れ合いとさんざんなだめたりおどしたりしたあげく，機嫌を取り直して，

　『ゴハン噛みにくいけんネ，こっちの歯で食べたっちゃん。』と博多弁なまりで 横の歯を指さしながら言う。

朝，『歯が取れたよ。』と見せに来た。

　根が無くて，かさぶたのように、露出した部分だけがポロリと取れたみたいな，小さな歯であった。

　連れ合いが，『良かったね，記念にとっとこうネ。』と，ティッシュペーパーに包んで机に置いた。

　幾時間か経って，すっかり抜けた歯のことなど忘れて，はしゃぎ廻る娘たちを横目に，歯を取り出して手のひらで転がしながら眺めるうち，

　これを私のお守りにしようと決めた。

みんな嘘つきだった

俺も嘘つきだった

親も嘘つきだった

友だちも嘘つきだった

教師も嘘つきだった

彼女も嘘つきだった

どいつもこいつも嘘つきだった

そしてジョン・レノン、

あなたは嘘についての真実ばかりを語った。

あなたは真実のままに死んだ。

私はまだ嘘にまみれて生きている。